2011-06-20

詩辺①

橋の陰影。何かに到達する悦び。悦びと引き換えに失った過去への憂い。

2011-06-06

アラスカ


 起きたらそこはアラスカで、僕はアラスカのふんわりした野草の綿毛にくるまれていた。ひどく暖かく、ひどく不安だった。

 僕は物憂げに身を起こす。ちいさな起伏の連なりに、遥か遠い山々。近くの稜線は白・黄・青に彩られ、遠くは見たことも無いほど鮮やかな群青に縁取っていた。もうアラスカは春だった。

 光は僕の瞳孔を突き刺すことも無く、でも輝かしく、ひどく穏やかでやさしい。僕は辺りを歩いた。ちいさな起伏に見え隠れして、結局遥か遠くにいってしまうレール。でも、今はどこに行くこともない、だってこんなに太陽は穏やかで、辺りはきれいな水に溢れているのだから。小川というより、ひどく入り組んだ入り江のようで、そこかしこの草々の下には水が流れており、辺りは濡れて輝いていた。

 ここがアラスカであるという唯一の証は、灰褐色の海岸線だけ。その寒々とした色あいも生気に満ち溢れた景色と同化してひどく喜ばしかった。もうすこし先に人が住んでいるかもしれないから、そこに行ってみることにした。

 

 ひどく緩やかな稜線を一山二山越えて、途中に突然出現したバスの営業所を無視して、近代的な家が立ち並ぶ住宅街の路地を歩く。近代的とは言え、未だにカベは塗りムラを残した手塗りだし、家の端々はくすんでいた。突然鳴り出す携帯電話。「*******!!」

 「?????」

 「! ! !」

 どうやら、僕は随分長く寝てしまい、何しろ一週間ほど寝てしまっていたようだ。会社の人はひどく怒っている。さてはて、これでは不安なわけだ。僕は早速帰ってナントカしなければいけない。とはいえ、歩きで東京まではきつすぎる。せめて自転車でもあれば良かったのだが。僕の横には現地の青年が立っていた。紙は栗色で、ひどく深い青の瞳を持つ青年だった。西洋人のようにも見えるが、僕は東洋人の血が混じっていると思った。彼を見ているだけで、僕の心はさわやかな風に吹かれているようだった。僕はこの地にいる間、彼の家にお世話になっていたのだ。一緒にいてこんなに爽やかな気分になる人は今までいなかった。僕は他に帰る手段がないか、尋ねてみた(実の所、そんなに帰りたいとは思ってはいないが)。

 「ねえ」

 僕はいった。風が僕の体の中を吹き抜けていった。なんて空気がうまいんだろうか。

 「ねえ」

 空は青い。青すぎて眩暈がする。その瞬間に心が持っていかれた。

 「ねえ」

 本当は帰りたくはないのだった。

 「ねえ」

 「カラフト発、東京行きのバスが」

 


 ここはアラスカではなかった、カラフトだったのだ。だからひどく穏やかだったのだ。僕は合点が行って、その場で倒れた。