2006-12-29

ざくろ ,the pomegranate

 秋の夕闇と、飢えた僕。昼の輝かしい光は既に夜のニュアンスをその放射する光線の端に滲ませ、僕の鼻腔は湿り始めた空気を嗅ぎ分ける。僕は、長らく飢えていた。褪せた陽光は当たりかまわずそこかしこを染め上げて、全く迷惑な存在だった。しかも、瞳孔の端を翳める光線は、ただでさえ弱り始めている僕の瞳を更に痛めた。僕が最期に食べ物を口にしたのは、もう半年以上前の春の事で、食べたものは腐りかけの豚足だった(ような)。緩やかに下る坂道の途中、僕は太陽に背を向けて、後ろを振り返る、そこには長い自身の影が伸びていた。僕はそれを見て、まるで自分の背が本当に伸びたかと勘違いして、ちょっとした感慨を覚えていた。僕のいる坂道の辻違い、もう一本隣に走る広めの通学路からは、遊びに興じる子供たちの笑い声が微かに聞こえる。おそらく、その通りには、買い物帰りの主婦が籠をぶら下げて闊歩し、早めに帰宅するサラリーマンは居心地の悪い感じで足早に道の端を歩いているのだろう。しかし、この道には誰もいない、僕以外は、誰も。

 人通りの無い、今僕がいる通りの脇に伸びる路地裏、左側には高い壁がそびえたち、右側には民家から延びる黒々とした木々が張り出したその路地裏は暗く、人通りはもっとなさそうだ。子供達が「かくれんぼう」するには打って付けの場所だ。こう言った場所には、隠れる物陰は幾らでもある。僕はその影のある道に、影そのもののようになって入り込んだ。子供の頃の経験では、こういった路地裏の民家の軒先には、なんらかしらの果実がなる木があるものだ。今は秋、時期としては打って付けだ。僕は木々に遮られて斑になった影の中をすり抜けて、路地裏を進んだ。果たして、それはあった。T字路の角の家の、ブロック塀に寄りかかるように生えるザクロの木。実はたわわに実り、今にも熟して落ちてきそうだった。辺りはT字路のわりに暗く、視界が悪かった。家の窓には、明かりが無い。ここでなら誰の目にも見咎められず、ザクロの実を手に入れることが出来るだろう。僕は一度、すっと壁に馴染んでから、辺りを見回す。人はいない、声も無い。ブロック塀に開いた飾り穴に足を掛け、一息に塀の上に立つと視界がより開けた。やはり人っ子一人いない。表通りの喧騒からは、全く隔絶されていた。目の前には、枝にぶら下がるザクロの実がある。僕はジャンパーを脱ぎ、風呂敷のように使って幾つかの実を包んだ。

 ジャンパーの風呂敷を片手に持ちながら塀を降りるのは、ひどく骨が折れた。無事に降りた僕は、しかし油断してしまったのだろう、風呂敷からこぼれた実を、すんでの所で捕まえることができなかった。差し出された僕の手は、むなしく空を切る。すり抜けた実はゴムボールのように弾んで、木々の陰の合間を、橙色に明滅しながら、何度か跳ねて、T字路まで転がった。

 夕陽にライトアップされたザクロの実は、弾みで割れたのだろう、パックリとその傷口を露にしていた。どこからか、夕餉の匂いが漂ってきた。母親は、夕餉の支度をしながら家族の帰りを待つ。帰宅した子供は、母の苦労も目に入らず、テレビのチャンネルを、コマーシャルの度に変え続ける・・・・・・。ザクロの割れ目から滴るのは、果汁では無かった。磨き上げられた幾つかのビス。中からのぞくのは、歯車とシャフトからなる精密なメカニズムだった。T字路の真ん中で、夕陽の残光を受けて、それらの金属部品は橙色に輝いていた。その時、突然、割れたザクロの実は、「Jiii.....」と言うかすかな機械音を立てた。それに呼応するかのように、風呂敷の中にある実も、一斉に「Jiii.....」と鳴り始めた。僕は疲れて、その場にへたりこんだ。僕の手の中で、風呂敷は音を立てながら、震えた。


Photo & Fancy : M.Y
Camera : Kyocera WX300K
Retouch Software : Picasa2

2006-12-20

百合、凍てつく lily, the freezing






歌姫の歌声に誘われ

手の中に現われ出でたる白き百合

その様、綿雪に覆われるよう

「ふ」

白い息に身を晒し

凍てつく百合に

哀れを催す事も無く

透ける硝子のその身に

再びの吐息

舞い散る銀粉

音鳴く崩れし百合の一片

松の根にかかる




On the invitation of singing voice,

White lily that appears in my hands.

The appearance seems to be covered with the snow of the powder.

“Hu….”

Lily that exposes herself to white breath.

She has frozen.

But I didn’t sympathize.

Translucent glass,

The wind sighs, again.

Silver dust that dances and scatters,

A splinter of lily crumbles with the metallic sound .

It falls on the root of the pine.



Photo : Rin-Shu
Poem : M.Y
Retouch software : Adobe PhotoShop

2006-12-19

種 The seeds


 

灰色の空、群青の海原、手前に広がる葦の林は、枯れてまばらだった。うらびれた売店の横にある、公衆電話の受話器を手に取る。風は冷たく肌を切った。ダウン・ジャケット着て家を出てきたのは、正解だった。

「・・・るは・・・・。」

 受話器の声は、ノイズ交じりで良く聞き取れない。まるで風の囁きだ。聞き覚えのある、ホワイトノイズ。僕はジャケットのポケットの中からビール缶を取り出した。受話器は頬と肩で挟んで、缶のプルタブを開ける。

「・・・・・はるは・・・・・。」

 何だか、鉄の味がする。体に残る、若干の痛みが思考を鈍らせた。風は、海辺にも係わらず、乾いて冷たい。何故か、子供の頃に訪れた新興の住宅街を思い出した。道は広く、黒々としたアスファルトは真新しい。銀色の瓦は反射する陽光で瞳孔を痛める。真新しいブロックと大理石を張り合わせた塀は、ざらついている。果てしない続くと思える街道には、時折轟音を立てて通り過ぎた。夕方、広い公園に差し込む橙色の光が、遊ぶ子供たちの声を色づけた。汗の匂い、硝子の杯。幼い日の記憶が、脳裏をかすめた。

「・・・春は・・・・・。」

 僕はようやく聞き取ることが出来た。彼が何を言わんとしているのか、大体予測することが出来る、今の僕ならば。

「もし、戻るとしたら・・・・。」僕は告げた。「それは、春になるだろう。」

 受話器を置く。チン、と電話機が鳴った。その瞬間、鳥が一声、鳴いた。その叫びに、僕の心は遥か先に、飛ばされてしまった。僕は、缶をあおる。そして、長らくポケットの中にしまわれていた物を取り出した。それは、植物の種だった。一円玉位の大きさだ。それは、元の色からは既にかけ離れた色になっていて、おそらくもう、発芽することは無いだろうと思われた。

 暖めすぎて、腐ってしまった種。大事にするのは、余計なことだった。例え季節は巡り、春が訪れても、この種には春は来ない。僕は飲みかけの、生ぬるくなったビールを種にかけた。最後の餞別だった。



僕は、海辺を去った。去りながら、来る筈の無い、もう一つの春を思い描いていた。長らくの冬は遂に過ぎ去り、凍てつく大地から発芽する新しい若芽。新鮮な陽光を浴び、若木は成長する。更に季節は巡り、幾たびかの冬を越した後、その若芽は、ほっそりとした若木になり、新たな時期の到来を告げる。


Picture : Keita-Kishino

Poem : M.Y

2006-12-13

『Discovery lights up the night(9 Dec 2006)』


Flooding the night sky with its blazing light, Space Shuttle Discovery leaps toward the sky from Launch Pad 39B on mission STS-116 at 8:47:35 p.m. EST on Dec. 9, 2006. This is Discovery's 33rd mission and the first night launch since 2003.

The 20th shuttle mission to the International Space Station, STS-116 carries another truss segment, P5. It will serve as a spacer, mated to the P4 truss that was attached in September. After installing the P5, the crew will reconfigure and redistribute the power generated by two pairs of U.S. solar arrays.

Image credit: NASA/George Shelton

『ディスカバリー、夜を光で彩る(2006/12/9)』

 燃え盛るような光で夜の空を溢れさせ、スペースシャトル「ディスカバリー」は、2006年12月9日、午後8時47分35秒(東部標準時)に、ミッションSTS-116により、発射台から空へと飛び立った。今回の発射は、ディスカバリーにとって33度目のミッションであり、又2003年以降では初めてのものになった。

 国際宇宙ステーションへのシャトル・ミッションとしては20度目になるこのSTS-116では、(以前運んだものとは)別のトラス・セグメント、P5を運んだ。P5は、既に9月に取り付けられていたP4トラスと組み合わせ、繋ぎの部品として使われる事になるだろう。P5を取り付けた後、乗組員達は2対のアメリカの集光アンテナで作り出した電力を再構成して、再供給するだろう。


Reference:Truss
トラス(truss)とは、この場合、国際宇宙ステーション(the International Space Station)の骨組みを形づくる部分(セグメント)の事。主に宇宙ステーションの各モジュールを繋ぐ役目を果たす。今回のケースでは、電力を供給する二対のモジュール(U.S. solar arrays)を繋いだ。わざわざP4とP5の二つのトラスを接いで使ったのは、スペースシャトルの運搬用のカーゴに完成品のままでは入らない為(大きすぎる・・・)。当然、これらの材料はその本体を晒して大気圏を無事に通過することは出来ないのだ。今回のミッションのお陰で、トラスが組みあがった後に、宇宙ステーションは新たな電力供給源を得ることになるだろう。

ちなみに、トラスは古来、橋の補強部分(とその構造)の事を指し、その起源は古代ギリシャ時代に迄遡るという(wikipediaより)。

2006-12-12

Apollo


宵は闇に融けて薄まり
黄色のアンカーは早々と退場し
まどろむアポロは、その泡立つ体をグラスの底によこたえる

The evening melts into the dark, and is beginning to thin.

A yellow anchor leaves it early,

Apollo that takes a nap, He lies in the bottom of the glass with the bubbling body.



Photo & Poem : M.Y
Camera: Kyocera WX300K
Retouch Software: Picasa2
location: Bar "Le Select"