2008-10-01

めがねと破損 - the glass, the break

鼻の右側だけ、いやに気になるから、僕は執拗にめがねの右側のフレームの上を、対角の左手で、押さえ込んだ。何度も押さえるものだから、しまいには、めがねの右側の鼻あてが折れてしまった。

このめがねは、借りためがねだったので、僕はたいそうあわてた。僕は急いで飛び起きて、本当はこの出来事がゆめの中のことであったことを忘れて、めがねを貸してくれた相手のところへ駆けつけた(もちろん、自転車でだよ、歩きでなど、考えられない)。

行き先は、思ったより遠く、はるかに遠く、ゆっくりと廻すように押し当てたペダルの張力でスムーズに走る自転車でなければ、とてもにたどり着かなかったに違いない。僕はさびた鉄格子の重い門を押し開け、扉を開き、食卓に向かい、トースターから焼けたての食パンが飛び出したのを後ろ手にキャッチ。マーマレード塗って食べて胸焼けした。

「あ」

遠くから潮騒。いや、むしろすぐ近く、右耳の根元の首筋の大動脈が音を立てて僕の三半器官をむさぼった。僕はスローモーションでうしろに倒れこむ。回り込むように、溶けるように、あたりは経巡って、僕は暗闇の一点に向かって落ち込んでいった。深く、深く。深く、深く、そして、落ちゆく暗がりの景色は、深い奥地の森を思わせた。

「あ」

僕は背中から、家の布団の上に落ちた。外を見ると、朝じゃないか!布団の横には、破損していないめがねが。僕はその、破損などしていない借り物のめがねをかけた。


「あ」

このめがね、すりガラスの向こう側が良く見えるなあ。すりガラスの向こう側は、夏の海だった。

うみねこの鳴き声が。
飛行機の轟音が。
夏の日差しが、すりガラス越しに、眼鏡越しに、容赦無く、僕の瞳孔を突き刺した。

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