冬も暮れ、春松に雪。
寒さに目が覚める。目の前を緑色の何かが走る。ひどく気分の悪い朝は、気づけばもう夕暮れだった。 隣家の松の枝から、時折解けかけの雪が無様に落ちる。胸のむかつきが、始終変わらず不愉快にさせる。テレビの音が空々しい。見やがれ、お隣の松。出来れば僕も、滑り落ちたいものだ・・・・・・。
こんな気分も、胃に何か入れれば収まろう。ちゃんちゃん羽織って、外に出る。木枯らし、サンダル、あかぎれの素足。何が悪いんだかしらねえ。ひどく冷え込む夕暮れは、歩く間に間に闇に落ち。ひどく寒いが、胃の中に何かいれれば収まるだろう。
「おーい」
と、程遠くからの呼び声。ああ、僕じゃない。呼ばれているのは、おそらく。しかし、気づかない位遠いもんだ。あの手の呼び声は。別にお呼びでないけれど、今度お呼ばれしてみよか。赤、白、緑のおべべ着て。
「おーい」
あはは、もう無視だ。気にもしないで、なじみの酒屋に飛びこんで、勢いきって、酒頼み。「ビールをくれ」ああ、「あと鯖を」
「さば、さば、さばを焼いとくれ」
「おーい」
「しっかし、せっかちだねえ」
「いいから、出しとくれ、こっちはもう限界だよ、さば、さば」
「おーい」
「ビール、さば」
「おーい」
どうも、目当ては僕らしい。さば一匹を食う間もないのかね。焼いて脂ののった鯖。季節外れも恐れずに。
鯖を食わずに店を出る。今度は僕が追いかける手順だ。昔と変わらぬ、くだらん段取りだ。街角の古いスピーカーから、商店街が垂れ流す音楽が聞こえる。ああ、あれは、Five Deezじゃあないかね。あの呼び声は、過去の下らぬガラクタだんたんじゃあ、ないかね。ああ、あまりに滑稽だ。滑稽すぎて、笑いも乾く。
宵闇も過ぎ、今はとっぷり暮れた初雪残る街角を、僕はあの意味深な呼び声を、ちゃんちゃん一枚体に巻きつけ、追いかけ追いかけ疾走する。
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